精密検査から約二週間後、佐藤さん(28歳)は再び矯正歯科の診察室にいた。目の前のモニターには、彼女のレントゲン写真や歯の模型データが映し出されている。これから、彼女の歯列矯正の具体的な治療計画が明かされるのだ。歯科医師はまず、セファログラムを指し示しながら説明を始めた。「佐藤さんの場合、歯のガタつきの原因は、顎の大きさに対して歯が大きく、並ぶためのスペースが不足していることにあります。また、骨格的に見て、上下の顎が少し前に出ている傾向がありますね」。次に、口の中の写真を見ながら、「この口元の突出感を改善し、歯を綺麗に並べるためには、スペースを確保する必要があります」と続けた。佐藤さんの心臓が少しだけ速くなる。そして、医師は最も重要な結論を告げた。「私たちの診断としては、上下左右の第一小臼歯を計四本抜歯し、そのスペースを利用して前歯を後ろに下げ、歯列を整えるのが最善だと考えます。治療期間は約二年半、その後、後戻りを防ぐための保定期間が必要です」。抜歯。やはりそうか、と佐藤さんは思った。健康な歯を抜くことへの抵抗感はあったが、医師は非抜歯で治療した場合のシミュレーションも見せてくれた。そこには、歯のガタつきは治っても、口元がさらに前に出てしまった未来の彼女の顔があった。抜歯をすることで、横顔のEラインが劇的に改善されることも、データは明確に示していた。費用や使用する装置の種類、治療に伴うリスクについての説明も丁寧に行われた。全ての疑問に答えをもらい、複数の選択肢のメリット・デメリットを理解した上で、佐藤さんは深く頷いた。「先生にお任せします。このプランでお願いします」。不安が、確信に変わった瞬間だった。精密検査という客観的なデータに基づいた診断は、彼女が抱えていた漠然とした悩みを、明確なゴールへと続く道筋に変えてくれた。この日、彼女の歯列矯正という長い旅の羅針盤が、確かに手渡されたのだ。