歯列矯正は、多くの場合、見た目のコンプレックスを解消し、自己肯定感を高める効果が期待されます。しかし、稀にではありますが、矯正治療を終えた後に「やらなきゃよかった」という後悔の念に苛まれ、かえって自己肯定感が低下してしまうという、負のループに陥ってしまうことがあります。このような状況は、なぜ起こるのでしょうか。一つの要因として、「期待値が高すぎた」という点が挙げられます。歯列矯正に対して、「これさえすれば全てが解決する」「理想の自分になれる」といった過度な期待を抱いていると、実際の治療結果がその期待に少しでも及ばなかった場合、大きな失望感に繋がります。特に、SNSなどで見かける劇的なビフォーアフターの症例ばかりを見ていると、自分の変化が些細なものに感じてしまい、「こんなはずじゃなかった」と思ってしまうのです。また、「他者からの評価への過度な依存」も影響します。矯正治療の動機が、「人から良く見られたい」「もっと可愛くなりたい」といった他者評価に偏っている場合、治療後に周囲からの期待した反応が得られないと、自分の選択が間違っていたのではないかと不安になり、「やらなきゃよかった」という思考に陥りやすくなります。自分の内面的な満足よりも、外からの評価を気にしてしまうのです。さらに、「完璧主義的な思考」も、後悔の念を強める要因となり得ます。歯列矯正は医療行為であり、ミリ単位での完璧な仕上がりを保証するものではありません。わずかな左右非対称性や、理想とは少し異なる歯の角度など、細かい部分が気になり始めると、そればかりに目が行ってしまい、全体としての改善点を評価できなくなります。「ここがこうなっていれば完璧だったのに」という思いが、「やらなきゃよかった」という後悔に繋がってしまうのです。このような負のループから抜け出すためには、まず、自分の感情を客観的に見つめ直すことが大切です。何に対して不満を感じているのか、それは本当に矯正治療のせいなのか、他に要因はないのか。そして、完璧ではない自分を受け入れること、他者の評価に左右されすぎないこと、そして何よりも、矯正治療によって得られたポジティブな変化(噛み合わせの改善、清掃性の向上など)にも目を向けることが重要です。