歯列矯正によって歯並びが整った結果、以前よりも顔の印象が変わり、「なんだか可愛くなくなった気がする」「前の顔の方が好きだった」と感じてしまう方がいます。これは、具体的にどのような顔の変化が影響しているのでしょうか。一つ考えられるのは、「顔のパーツのバランスの変化」です。歯並びは、口元の印象だけでなく、鼻の形や顎のライン、頬のふくらみなど、顔全体のバランスにも影響を与えます。例えば、八重歯があったり、前歯が少し突出していたりすると、それが頬のボリューム感を強調し、どこか幼く可愛らしい印象を与えていたかもしれません。矯正によって歯が正しい位置に収まると、口元がすっきりする反面、頬のふくらみが減って顔がシャープになり、大人びた、あるいは少しきつい印象に変わることがあります。また、「口元の後退による変化」も大きな要因です。特に抜歯を伴う矯正治療の場合、前歯を大きく後退させることで、口元が引っ込み、Eライン(鼻先と顎先を結んだライン)が整うことが期待されます。しかし、これが過度になると、口元が下がりすぎてしまい、ほうれい線が目立ったり、鼻の下が長く見えたり、どこか寂しげな印象になったりすることがあります。これは、特に元々口元の突出感が少なかった方が、さらに口元を下げた場合に起こりやすいと言われています。さらに、「表情の変化」も無視できません。以前の歯並びにコンプレックスを感じていた方が、矯正によって自信を持って笑えるようになるのは素晴らしいことですが、一方で、特徴的だった歯並びがなくなることで、笑った時の「チャームポイント」が失われたと感じる人もいます。例えば、八重歯が見えることで愛嬌のある笑顔になっていた場合、それがなくなることで、整ってはいるけれどどこか物足りない、と感じてしまうのです。これらの変化は、決して「矯正が失敗した」ということではありません。医学的には正しい歯並びになっても、本人の美的感覚や自己イメージと合致しない場合に、このような感情が生まれることがあります。治療前に、どのような顔貌の変化が予想されるのか、歯科医師と十分にシミュレーションし、納得した上で治療を進めることが重要です。