アデノイド顔貌に悩む方にとって、歯列矯正は顔貌の改善や機能回復への大きな希望となる治療法です。しかし、歯列矯正が万能であるかのような過度な期待は禁物であり、その限界と可能性を正しく理解しておくことが重要です。アデノイド顔貌は、アデノイド(咽頭扁桃)の肥大による慢性的な鼻閉と、それに伴う長期的な口呼吸が主な原因とされています。この口呼吸が、顎骨の成長方向や歯並びに影響を与え、特有の顔貌(下顎の後退、面長の顔、開いた口元など)や歯列不正(上顎前突、開咬、叢生など)を引き起こします。歯列矯正は、これらの歯列不正を改善し、噛み合わせを整えることで、口元の突出感を軽減したり、顔のバランスをある程度改善したりする効果が期待できます。特に成長期のお子様であれば、顎の成長をコントロールする装置を用いることで、より大きな顔貌の変化を促せる可能性があります。しかし、歯列矯正はあくまで歯を動かす治療であり、骨格そのものを劇的に変化させるものではありません。アデノイド顔貌の程度が著しく、骨格的な不調和が大きい場合、歯列矯正だけでは理想的な顔貌の改善が難しいケースも存在します。例えば、下顎が極端に小さい、あるいは後退している場合などです。このような場合には、顎の骨を切って移動させる外科手術を伴う矯正治療(顎変形症治療)が必要となることもあります。また、最も重要なのは、アデノイド顔貌の根本原因である口呼吸の改善です。アデノイド肥大が原因であれば、まず耳鼻咽喉科での診断と治療(保存療法や手術など)を受け、鼻呼吸を確立することが大前提となります。鼻呼吸が改善されないまま歯列矯正を行っても、治療効果が十分に得られなかったり、治療後に歯並びが元に戻ってしまう「後戻り」のリスクが高まったりします。さらに、長年の口呼吸によって定着してしまった舌の悪い癖(低位舌など)や口唇の筋力不足は、口腔筋機能療法(MFT)といった専門的なトレーニングによって改善を図る必要があります。歯列矯正はアデノイド顔貌の改善に大きく貢献できますが、それは耳鼻咽喉科的治療やMFTとの連携があってこそ最大限の効果を発揮するものです。正しい知識を持ち、専門医とよく相談した上で、現実的なゴール設定をすることが大切です。