アデノイドとは、鼻の奥、咽頭扁桃と呼ばれるリンパ組織の一部が肥大した状態を指します。特に成長期の子どもに見られることが多く、このアデノイドの肥大が慢性的な鼻詰まりを引き起こし、結果として口呼吸を常態化させてしまうことがあります。口呼吸が長期にわたると、顔の骨格形成や歯並びに様々な悪影響を及ぼし、「アデノイド顔貌」と呼ばれる特有の顔つきになることがあります。アデノイド顔貌の典型的な特徴としては、ぽかんと開いた口元、下顎が後退し顎が小さく見えること、それに伴う二重顎、鼻の下が長く見える、唇が分厚く見える、目の下にクマができやすい、などが挙げられます。歯並びへの影響も深刻で、口呼吸によって舌の位置が下がり、上顎の成長が不十分になることで、歯列のアーチが狭窄し、出っ歯(上顎前突)や叢生(歯がガタガタに生える状態)、開咬(奥歯で噛んでも前歯が噛み合わない状態)などを引き起こしやすくなります。また、常に口が開いていることで口腔内が乾燥し、虫歯や歯周病のリスクも高まります。歯列矯正は、このようなアデノイド顔貌によって乱れてしまった歯並びや噛み合わせを改善するための有効な治療法の一つです。歯を正しい位置に誘導し、顎のバランスを整えることで、口元の突出感を軽減したり、噛み合わせを改善したりする効果が期待できます。しかし、重要なのは、アデノイド肥大が原因である場合、まず耳鼻咽喉科での診断と適切な治療(保存的治療や場合によっては手術)を受け、鼻呼吸を確保することが先決となるケースが多いという点です。根本原因である口呼吸が改善されなければ、歯列矯正を行っても後戻りのリスクが高まったり、十分な効果が得られなかったりする可能性があるため、矯正歯科医と耳鼻咽喉科医との連携が非常に重要になります。