歯列矯正に伴う歯根吸収は、そのほとんどが軽度で、歯の機能に問題を起こすことはありません。しかし、もし何らかの理由で重度の歯根吸収が起こってしまった場合、私たちの歯にはどのような影響が及ぶのでしょうか。そのリスクと症状について知っておきましょう。まず理解しておきたいのは、歯根吸収には自覚症状がほとんどないということです。歯根が多少短くなったからといって、痛みを感じたり、食べ物が噛みにくくなったりすることはまずありません。そのため、患者さん自身が異変に気づくことは難しく、多くは治療中の定期的なレントゲン撮影によって、歯科医師が発見します。歯根は、歯を顎の骨の中にしっかりと固定しておくための「杭」のような役割を担っています。この杭が短くなれば、当然、歯を支える力は弱くなります。歯根の長さが3分の1以上失われるような重度の歯根吸収が起こると、歯の動揺、つまりグラつきが大きくなる可能性があります。健康な歯でもある程度の動き(生理的動揺)はありますが、それ以上に歯が揺れやすくなるのです。では、歯の寿命にはどう影響するのでしょうか。歯根が短くなった歯は、将来的に歯周病が進行した場合に、健康な歯に比べて早く抜けてしまうリスクが高まります。歯周病は、歯を支える骨を溶かしてしまう病気です。同じレベルで歯周病が進行した場合、元々の歯根が長い歯よりも、歯根吸収で短くなった歯の方が、歯を支えきれなくなるまでの猶予が少ないことは想像に難くないでしょう。極めて稀なケースではありますが、極度の歯根吸収が起こった場合は、歯の保存が困難と判断され、矯正治療の中断や、最悪の場合は抜歯に至る可能性もゼロではありません。ただし、これは非常に例外的なケースです。現代の矯正治療では、定期的なモニタリングによって、重篤な状態になる前に発見し、適切な対処を行うのが一般的です。歯根吸収は静かに進行しますが、専門家による適切な管理下であれば、過度に心配する必要はないのです。
歯根吸収が進行するとどうなる?歯の寿命への影響と症状